スキャナーなどICTの導入で幼児教育の充実と校務負担の軽減を両立した武蔵野東学園

スキャナーなどICTの導入で
幼児教育の充実と校務負担の軽減を
両立した武蔵野東学園

「学校法人武蔵野東学園」は、健常児(定型発達児)と自閉症児の「混合教育」と「生活療法」によって国内外で高い評価を得ている私立学校です。東京都下に二つの幼稚園、小学校、中学校、高等専修学校、教育センターを擁する同校では学園をあげて積極的にICTを取り入れており、教育と校務に役立てています。特に幼稚園とICTの関係は密接で、スキャナーは「ScanSnap SV600」と「ScanSnap iX1500」の2機種が導入されています。学園傘下の「武蔵野東第二幼稚園」を訪ね、それらがどのように活用されているのかをレポートします。


スキャナーなどICTの導入で幼児教育の充実と校務負担の軽減を両立した武蔵野東学園

武蔵野東第一・第二幼稚園の園長、加藤篤彦先生。自他ともに認めるデジタルガジェット通です。


スキャナー製品情報|スキャナーならScanSnap

子どもたちが作品を自分でスキャン!

陽光が差し込む園舎で大勢の子どもたちが紙に絵を描いたり、空き箱やボール紙を切り貼りしたりと、作品づくりに熱中しています。ここは東京都武蔵野市にある武蔵野東第二幼稚園。ICT導入が進む「学校法人武蔵野東学園」の中でも、この幼稚園では特に積極的な活用が見られ、2機種の「ScanSnap」が活躍中と聞いてお邪魔しました。園長の加藤篤彦先生が「まずこちらへ」と向かった先は教育現場の“ど真ん中”。ここで何が行われているのでしょうか。


左:子どもたちの手の届く高さに「ScanSnap SV600」とノートPCが設置されています。
右:武蔵野東第二幼稚園の全景。


と、何人かの子どもが作品を持ち、タタタタッと足早に部屋を出ていきました。向かう先には、なんと「ScanSnap SV600」とノートPCが、子どもが操作できる高さに並んで設置されています。そして子どもたちが絵や立体の作品をSV600にセットし、思い思いにスキャンを始めました。これはいったい……? 加藤先生にうかがいましょう。


「子どもたちに『スキャナーがあったら君たちは何をする?』と投げかけてみたんですよ。泥があれば泥団子を作りたくなるでしょう? それと同じです。材料を与えたり環境を整えたりして、子どもの創造性を引き出すのが僕らの仕事ですから」


SV600は非接触でスキャンするオーバーヘッド読取方式のスキャナーです。原稿に触れずに読み取るため、子どもたちがクレヨンや絵具で描いた絵も傷めることなくデジタル化できます。加藤先生はその特長を活かして、子どもたちが自作の絵や工作を自分でスキャンできるようにセッティングし、その“スキャン遊び”がどう発展していくのかを見極めようとしているのです。


「スキャナーとの出合いは子どもにとってすごくおもしろいこと。見ていると、知的な好奇心が芽生えているのがわかりますよね」


作品を次々にSV600の下に置き、自分でボタンを押してはノートPCに映し出されるスキャン画像を確認する子どもたち。スキャンの結果が思い通りにはならないこともあるようで、不思議そうな顔をする子もいれば、「あー」と何ごとかを納得してもう一度スキャンする子もいます。


「今、あの子がやり直したでしょう。結果を見て『立体の上だけしか写らないんだ』とわかったんですよ。だから写したい部分が写るように角度を変えてみたわけ。おもしろいでしょう。スキャンという行為がすごくクリエイティブな遊びになっているんです」


左:超大作が登場! スキャンできるかな?
右:うまくスキャンするにはどうすればよいか、子どもたちなりの議論が自然に発生します。


SV600は一定の高さまでなら立体物も美しくスキャンできますが(※)、作品の中にはそれを超えた“大作”もあります。でもこの場合、何かが写ってさえいればオーケー。子どもたちが気づいたり学んだりするための起点になればよいからです。


加藤先生によると、この次はスキャンした画像を紙に出力して、子どもたちがどんなアクションを起こすのかを見てみたいとのこと。加藤先生は「ガジェット好き」を自認するデジタル通で、現場の先生たちも多くがデジタル世代です。幼児教育の本質に照らして、デジタルとアナログを適宜使い分ける時代になっていることを実感します。子どもたちがスキャンの先にどんな遊びを“発明”するのか、楽しみです。



「ScanSnap iX1500」に“園長ボタン”を作成

次は職員室にお邪魔して、引き続き加藤先生にうかがいましょう。ここでは「ScanSnap iX1500」が活躍しています。導入して間もないということですが、さっそく校務の中で重要な位置を占めつつあるようです。


「iX1500は誰でも使えるよう共有デスクの上に設置しています。スキャンする紙はFAXで届いた書類が多いですね。幼稚園業界はまだFAXが主流なんですよ。幼稚園の組織から届く会合の連絡などはほぼFAXです。届いたらすぐにiX1500でスキャンしてデジタル化します」


「iX1500」の液晶にはNASなど保存先別のボタンと並んで“園長ボタン”が作られています。


「僕個人に関する書類は『ScanSnap Cloud』経由で必ず『Evernote』に飛ばすと決めているので、さっそくiX1500に僕専用のボタンを作りました。ボタンはPDF用とJPEG用、ファイル形式別に二つあります。これまでは複合機でスキャンしていましたが、iX1500を導入して圧倒的に便利になりました。紙を上下まちまちに差し込んでも正しく読み取ってくれるし、自動でタイトルも付けてくれるし、これはすごいですよ」


なるほど、iX1500の液晶画面には「園長」の文字がひときわ目立つ専用のボタンが並んでいます。これを押すだけで書類は自動的にEvernoteに保存され、出先でもスマートフォンやタブレットで検索・閲覧できるようになるのですから実に便利です。このボタンはプロファイル(読み取り設定)別に30まで作れるので、先生ごと・書類別・保存先別というように増やしていくこともできます。


iX1500はPC抜きでスキャンが可能。読み取ったら「ScanSnap Cloud」を経由して「Evernote」に自動でアップされるので、iPadやiPhoneでいつでも確認できます。


「先生全員で共有する情報はNAS(ネットワークHDD)や『Microsoft SharePoint』、『Google Cloud』などを利用してシェアしています。これはiX1500でスキャンしたデータに限らず、デジカメで撮った子どもたちの写真や、先生たちがPCで作成した資料なども含めてのことです」


先生たちのデスクには一人につき1台のノートPCが置かれています。またすべての先生がデジタルカメラを常時携帯しているそうです。クラウドなどでの情報共有も含めて、「今の幼稚園はそんなに進んでいるの?」と驚くような状況です。積極的なICT導入について、より詳しくうかがっていきましょう。



ICTが先生の負担を軽減し、達成の度合いを上げる

加藤先生によると、武蔵野東学園が幼児教育にICTを導入するきっかけとなったのはデジタルカメラの小型化・高性能化だったといいます。


「我々教員にとって、園児一人ひとりが『今何に関心を持っていて、何をしようとしているのか』を把握することは最も重要です。これを『幼児理解』といい、先生が携帯しているデジカメはそのためのツールです。先生はいつも園児の行動に気を配り、目についた場面を撮影して先生同士で共有します。その情報が“次の遊び”を仕掛けるためのヒントになり、先生が作る記録の素材にもなっていきます」


デジカメ普及以前、園では子どもの行動を付箋に手書きし、貼り出して共有していたそうです。その手書きメモがデジカメ画像になったことで効率と精度は大きく上がりました。また画像を基にPCで記録を作成するようになり、先生の負担は軽減されて読みやすさは向上しました。何より大きかったのは、ICTによって園と保護者の間で情報を共有しやすくなったことです。


「現代の幼児教育では、先生が何を教えたかではなく、子どもが何を自主的に学んでいるのかが重要視されます。先ほどのスキャン遊びからも子どもたちは多くを学びますし、運動会などでは他の子に対してやさしい振る舞いをしたり、健常児が自閉症児を思いやったりする場面が多々見られます。そうしたすべてが学びで、重要な意味を持っているということを記録によって保護者に伝え、理解してもらうことが非常に大切なんです」


これらは加藤先生が撮影した写真。子どもたちの仕種に表れた感情の変化や学びのプロセスを見事にとらえています。


先生たちが日々作成する記録はクラス単位と個人単位があり、それぞれ「ドキュメンテーション」「ポートフォリオ」と呼ばれています。これらは保護者とのコミュニケーションツールになるほか、壁面に貼る、卒園アルバムの素材にするなど、幅広く応用されます。記録は子どもたちにとって「自分がどれだけ愛されて育てられたか」を示す証しになるという点も重要です。特に自閉症児が卒園後も自己を肯定して生きていくために、この記録は重要な役割を果たすといいます。


こうした記録の作成や保護者とのコミュニケーションは現代的かつ先進的なものですが、武蔵野東学園では早くも50年以上前の創立時に実践を開始しています。健常児と自閉症児を一緒に教育する「混合教育」と「生活療法」です。健常児においては他者へのやさしさを育み、自閉症児においては適度な刺激によって社会的自立への道を開く、この独自の教育について武蔵野東学園理事長の寺田欣司さんにうかがいました。


武蔵野東学園の理事長、寺田欣司さん。学園の歴史を綴った書籍『武蔵野東学園物語―学園五十年の軌跡』の著者でもあります。


「『混合教育』は、近年ようやく注目されるようになったインクルーシブ教育(障害のある子どもと障害のない子どもがともに学ぶ)の“はしり”です。当学園では創立者の北原キヨが最初に幼稚園を作ったときから一貫してやっていることです。そして『生活療法』というのは、簡単に言えば家庭教育。これが自閉症児教育でいちばん大切なんですよ」


「なぜなら、幼稚園に通っていても一日のうち20時間は家で生活しているから。家庭での教育がしっかりしていないと自閉症児は自立できません。ですから当学園では保護者に対する教育を非常に重視しており、『この子は園でここまでできました、家ではこうしてくださいね』と、保護者と綿密にやり取りをしています。園と保護者の間で交わされる“愛の交換日記”のようなものですね。これを当学園では自閉症児と健常児のすべてに対して、50年以上にわたって行ってきました」


幼稚園のきめ細かい「ドキュメンテーション」「ポートフォリオ」は、その一部として位置づけられるものです。創立者・北原キヨの教育は「子どものことは子どもに学べ」の姿勢で一人ひとりを徹底して観察する「愛と根気の教育」といわれます。そのスピリットが今も教育の現場に息づいているのです。「ですから、うちの先生たちの仕事は本当に大変ですよ」と寺田さんは言います。


その負担を少しでも和らげ、同時に教育の質をさらに向上させるために導入されたのがICTでした。デジタルカメラも、のちのクラウドやスキャナーの導入も、効率と達成の度合いを同時に高めるものとなりました。内実の伴った、意味あるICT導入の好例といえるでしょう。


左:中央の額の女性が創立者の北原キヨ。15歳で教員免許を取得した希代の教育者で、その教育手法は国内より先にアメリカで認められました。
右:自閉症児クラスの一角にて。園内には自然光が採り入れられています。


ちなみに、寺田さんの言う“愛の交換日記”も現在はスキャナーによってデジタル化されています。貴重な資料でもある日記の確実な保管を実現したのもまたICTでした。


武蔵野東学園を巣立った自閉症児の多くは、理解のある企業などに高い確率で就職し、社会的な自立を実現しています。また自閉症児との共生によって豊かな人間性を身につけた健常児の卒業生も各方面で活躍しています。今後もさまざまなICTが学園の営みを助け、より充実した教育が実現していくことを祈念します。


※ 読み取れる原稿の厚さは30mmまでとなります。


■取材先基本データ
学校法人武蔵野東学園
〒180-0012 東京都武蔵野市緑町2-1-10
Tel:0422-52-2211
自閉症児教育のパイオニアとして世界的に知られる。2019年5月現在、在籍する幼児・児童・生徒1618名のうち自閉症児は462名。また武蔵野東教育センターにも自閉症児660名が登録されている。


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